中枢移行性PROTAC

前回のポストでお話しした通り、PROTACのフロントランナーであるArivinas は中枢移行性を有するPROTACを報告しています。一般的に分子量が500を超えるような大きい分子は血液脳関門(Blood-Brain Barrier, BBB)を通過しづらい為、分子量が1000を超えてくるようなPROTACにおいて中枢で作用しうる薬剤を創製するのは簡単ではありません。今回はADの原因とされているタウの凝集体を標的としたArvinasの中枢移行性PROTACについて、公開情報から考察してみたいと思います。

まずは、ArvinasのHPにある資料からです。 http://ir.arvinas.com/static-files/73311000-3d7d-42c9-9316-092727498cab

下記の表は、代表化合物(構造非開示)の中枢移行性データになります。Brain/Plasma ratioが>0.5であり中枢薬として十分すぎる値を示しています。ちなみにPROTAC2,3についてはB/P ratioが1を超えており、高脂溶性や塩基性などの性質のため脳組織に張り付いて出てこない事を示唆しています。化合物によりますが、基本的にこういった性質の化合物は肝臓や腎臓などにも蓄積しやすく予期せぬ毒性につながる場合があるため、B/P ratioが高すぎるものも考えものではあります。

げっ歯i.v.投与時の1h後データ

次はモデルマウスを用いたin vivo試験です。Tg2508マウスはタウのP301L変異体をトランスジェニックしたマウスであり、もっとも広く用いられているタウオパチーモデルです。ここでもPROTAC-A, Bともに15~20 mpkの投与量でほぼ完全にタウ凝集体を抑制しています。

Tg2508マウスを用いたin vivo試験。完全にタウ凝集体を抑制している

ちなみに、Arvinas+tauで特許検索すると下記の2018年に公開された特許が見つかります。

https://patents.google.com/patent/US20180125821A1/en

バインダーはタウ凝集体に結合することが知られている既知化合物を用いています。E3リガーゼとしてはセレブロンとVHLの2種類を利用していますが、実施例を見るとほとんどがセレブロンになっていますので本命はセレブロンと推察されます。もちろん、構造がArvinasから公開されていないので私の個人的見解にすぎませんが。またこの特許には中枢移行性のデータがないこと、公開年が昨年であることから、本特許化合物は中枢移行性PROTACではなさそうです。化合物のコンパクトさ、水素結合ドナー/アクセプターの少なさからセレブロンをチョイスしPROTACを合成したが、期待したような中枢移行性は得られていなかったという結果でしょうか。

現在までに公開されている情報は以上のものしかありません。上記の特許化合物からどういったブレークスルーを起こして中枢移行性を獲得したのか、Arvinasからの続報を待ちたいと思います。

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