創薬温故知新①:10年前のFDA承認から学ぶ?

 新規の創薬アイディアを考える際には色々な情報・データを基に思いを巡らせると思います。仕事として割り振られた領域検討チームの範疇で考えることも多いでしょうし、過去の担当テーマを膨らまして着想に至る場合もあります。一番多いのはwatchしている雑誌の新着論文から着想するケースですかね。

 色々パターンはあると思うのですが、考える上で一つの指標になるのは、最近の上市品(おそらく正確には上市が見えてきた臨床品)の動向ではないでしょうか。最近で言えば2016年、Eteplirsen/nusinersen の2剤の核酸医薬品が上市される数年前から核酸創薬が盛り上がってきたり、2012年からの遺伝子治療実用化の流れの中で、Zolgensmaの上市が見えてきてからの各社の熾烈な参入競争など技術面での影響が記憶に新しいです。また疾患領域という点では、前述のモダリティにも関係していますが希少疾患への取り組みは現在の製薬業界における大きなムーブメントと思われます。もちろんロジカルな疾患領域戦略から導き出された方針ではあるのですが、実際はベンチャーから出てきた酵素補充療法・ケミカルシャペロンの成功などを見て、「せまい市場でも高薬価で勝負できる」といったイメージが湧いてきたことが追い風になったのは間違い無いでしょう。このように、少なくとも会社の方針に反映させるレベルの活動のベースは他者の成功に基づいていることがほとんどです。逆を言えば、技術的・領域的に面白いことは知っていても、まだ誰も成功者がいない領域に強めに張っていくのは不可能なのです。また個人レベルの提案であっても、先行の成功例を絡めることで説得力を持たせる手法は意思決定者を納得させるための常套手段でしょう。

 ところで、研究員の着想から新薬の上市までは途方も無い時間が必要なのはみなさまご承知の通りです。正確な期間の設定は難しいですが、研究4年+開発6年でだいたい10年としましょう(ちょっと短いですが)。すると、先の話から考えると

「世の中のムーブメントを反映したテーマの着想」+10年 = 新薬の上市

となるので、逆を取れば

「現在の上市品は10年前の世相を反映している」

と言えるかもしれません。そこでさらに考えると、「今の上市品は、10年前の世相をうまく生かした例」と言えますので、私は10年くらい前と現在の上市品を見比べると、世相をどのように活かしてテーマ(または戦略)を立てれば新薬の上市につながるのかというヒントが見つかるのでは無いかと思いました。

ということで、次回より10年ちょっと前からの、年度ごとの上市品および世相の振り返りを温故知新として実施していきたいと思います。ちょうど良い題材として、Nature Review Drug Discovery誌の「FDA drug approvals」という年1の企画があります。これが2007年から続いているので、2007年から順に進めていく予定です。

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