オートファジーを誘導するmolecular glue

Allele-selective lowering of mutant HTT protein by HTT-LC3 linker compounds Nature 2019 575 293.

 前回のエントリでは、サリドマイドやindisulamなど古くから知られる分子がmoleculer glueとして再発見されたことを紹介しましたが、今回は最初からmolecular glue取得を目的とした研究になります。しかも従来のユビキチン-プロテアソーム系ではなく、オートファジー誘導を活用している点で非常に興味深い報告になります。(オートファジー誘導についてはAUTACのエントリもご参照ください)。

 HTTはハンチントン病の原因となるタンパクです。患者さんでは遺伝的にタンパク質内のポリグルタミン構造が伸長しており、それが原因でHTTが凝集、神経毒性につながることが知られています。彼らはこのポリグルタミン構造と、オートファジー調節因子であるLC3の両方に結合する分子は、異常HTTのオートファジーを誘導して選択的に分解できるという仮説を立てました。ハンチントン病とオートファジーの関連性は前から知られていたようなので、スマートな着眼点だと思います。

化合物の取得方法はいたってシンプルです。すなわち、異常HTTのフラグメント、LC3Bおよびカウンターとしての正常HTTのフラグメント、の三種類を3375化合物を担持した低分子マイクロアレイに流し、前2つに結合し、正常に結合しない化合物を探索しました。スクリーニングの結果、2化合物がヒットとして得られました。これらはfull length異常HTTにも結合し、かつprimary neuronにおいて100 nMで異常HTT選択的な分解誘導活性を示しました。これらの分解誘導活性はオートファジー阻害剤のクロロキンやNH4Clで阻害され、かつオートファジー活性化剤であるラパマイシンで活性化され、この分解作用がオートファジー経由であることが示唆されました。

 原著を見ていただければわかるのですが、なかなかの小分子で高活性を発現しており、素晴らしい報告だと思います。端緒化合物としては十分すぎるくらいです。逆になんでこのシンプルな系-小さなライブラリスケールの組み合わせからこれほどのヒットが出てきたのか不思議に思うくらいです。同じようなやり方でいろんな標的に対してmolecular glueが取れるのか、はたまたたまたま組み合わせが良かったのか、今後同様の報告が増える中で見えてくるのでは無いでしょうか。(このやり方ではindisulamは取れませんね・・・)

ちなみにこの文献のイントロに言及があるのですが、オートファジーを選んだ理由の一つとして、凝集体など異常タンパクとの親和性が挙げられています(論文:Proteasome vs autophagy)。プロテアソーム系の弱点として、凝集体などの分解に適さないことが一般的に言われています。ここで気になるのが、以前紹介したArvinasのタウdegraderです。これはタウ凝集体を分解していると思うのですが、先行特許ではCRBNやVHLを使っていました。すなわちUPSの誘導を想定しています。このミスマッチは何を意味するのでしょうか。

 オートファジーにも幾つかパスがありますが、その中にはユビキチン化を認識するものもあります。ユビキチン化タンパクが、その後プロテアソーム経由 or オートファジー経由 で分解されるかは、ポリユビキチン鎖の結合様式で制御されていると言われています(一般的にproteasomeはK48、autophagyはK63)。いずれもE3リガーゼによりユビキチン化されますが、その選択性がやや甘いのでしょうか?またはK48でもオートファジーパスを一部とるのでしょうか?もう少し勉強してみたいと思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です