エピジェネティクスとエピトランスクリプトーム③

前回に引き続きエピジェネティクスについて紹介します。前回の続き、メチル化のeraserですね。

メチル化のeraserは当然ヒストン脱メチル化酵素になります。脱メチル化酵素はメチル化と比べて判明しているものが少ないですが、そのうちの一つであるLSD1は創薬標的として注目されています。LSD1はH3K4のみの脱メチル化に関わっているようなので、それなりに遺伝子選択性が期待できるのでは無いでしょうか。LSD1阻害剤はGSKを筆頭に複数の臨床試験が進んでいます(こちらの論文にまとまっています)。DNAメチル化の際にも紹介しましたが、脱メチル化は直接的な切断が難しいため酸化のプロセスが必要です。よってLSD1は酸化酵素になるのですが、補酵素としてFADを使っています。既知のLSD1阻害剤はこのFADとの共有結合性阻害剤のメカニズムを取っていてその辺りも面白いので、興味のある方は先の論文から辿ってみてください。

その他の脱メチル化酵素としては、JHDMファミリーというものが知られているようです。JHDMファミリーには21種類のアイソザイムが知られており、疾患との関連性についてもある程度言及はあるようですが、それほど研究は進んでいないのでは無いでしょうか。京都大の先生がこのJHDMの阻害剤について研究されているようなので(研究室HP)、こういったところから新たな創薬の種が見つかるかもしれませんね。

JHDM阻害剤(上記HPから引用)

これらの他にも、まだまだ知られていない脱メチル化酵素が存在していると思われます。私は合成化学出身なので詳しくはよくわからないのですが、脱メチル化酵素の同定は難しく、長年研究が進展しなかった領域のようです。実際LSD1やJHDMが同定されたのは2000年代に入ってからです。よって今後どんどん新規酵素が発見される可能性もあるので、この領域の研究進展をウォッチングしていくことで、新規創薬標的にいち早くアクセスできるかも?

次回はエピジェネティクス創薬界のエース(?)ヒストンアセチル化について紹介します。前置きのつもりで説明を始めたのですが、私自身が勉強しながらなので長くなってしまっていますが興味があれば引き続きご覧ください。

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